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浦和地方裁判所 平成2年(わ)919号 判決

本店の所在地

埼玉県岩槻市本町三丁目一番二〇号

埼玉協同住宅株式会社

右代表者代表取締役

高見富男

本籍

東京都荒川区南千住七丁目九一番地

住居

埼玉県岩槻市大字柏崎八三〇番地

会社役員

高見富男

昭和二四年三月五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官片岡康夫出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告会社埼玉協同住宅株式会社を罰金四千万円に、被告人高見富男を懲役一年六月に各処する。

被告人高見富男に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社埼玉協同住宅株式会社は、不動産売買等を目的とする資本金二、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人高見富男は、同会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人高見は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和六二年七月の代金一億三、六五〇万円の土地売却及び同年八月の代金四億三千万円の土地売却については雨宮猛を、同年九月の代金六億七、二一五円の土地売却については有限会社ワールドニッケン(代表取締役角辻清彦)をそれぞれダミーとしてその売買契約に介在させて右売却代金を低額に見せかけ、また、架空仕入れ、架空手数料等の架空経費合計八、九〇〇万円を計上するなどしてその所得を秘匿したうえ、昭和六二年七月一日から同六三年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億九、二八〇万八、三一七円で、課税土地譲渡利益金額が四億七、三一五万二、〇〇〇円あったのにかかわらず、同年八月三一日、同県春日部市大字粕壁五、四三五番地の一所在の所轄春日部税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七、六〇〇万五、九六九円で、課税土地譲渡利益金額が一億七、八五九万二、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億一、一三八万五、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出してそのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額三億一、六四七万四、七〇〇円との差額二億五〇八万八、九〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  関項、雨宮猛、清村東平、岡村好昭、角辻春彦、川口公彌、鈴木常次郎、原口忠、岡安良二、笠木昭夫、菅設男、刑部利明、森川秀信、小寺旦己及び高見和子の検察官に対する各供述調書

一  春日部税務署長作成の回答書(但し、昭和六三年八月三一日受付分)

一  大蔵事務官青木照男作成の査察官報告書

一  検察官作成の報告書

一  大蔵事務官青木照男作成の土地建物売上高調査書、期首棚卸高調査書、土地建物仕入高調査書、期末棚卸高調査書、支払手数料調査書、受取利息調査書及び共同事業分配金調査書

一  登記官吏作成の商業登記簿謄本

(法令の適用)

被告会社の判示所為は法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人高見の判示所為は同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告会社については、情状により同法一五九条二項を適用し、その所定金額の範囲内で罰金四千万円に処することとし、被告人高見については、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で懲役一年六月に処することとするが、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

(主たる量刑の理由)

本件の脱税額は約二億円に上り、その逋脱率は六四パーセントである。しかも、脱税した金員の多くの部分が被告人及びその妻の個人的消費に回されており、犯情は芳しくない。

しかし、他方において、被告人は、中学卒業後不動産会社に勤め、昭和五二年に被告会社を設立し、現在では八名の従業員を使用するまでになったが、その間本件迄は格別の問題を起こさず、社会福祉的な活動にも携わり、業務上過失傷害による罰金刑のほかは前科を有していない。そして、本件の脱税が行われたのは、地価の異常な値上りにより被告会社が巨額の利益を挙げた時期であって、そのような事態は一時的なものと考えられる。また、本件では土地取引にダミーを用いているが、この方法を、取り入れたことについては、雨宮ら経済的に困窮した者達が積極的にダミー役を買って出たことが影響していると考えられ、現に、本件脱税によって得た利得のうち、相当部分が右ダミー役の者達に支払われ、その余は、被告人の行っていた社会的、文化的事業にも用いられ、脱税額のすべてが個人的な目的に用いられている訳ではない。その他、本件発覚後、被告人はことさら証拠を隠滅したり、犯行を否認したりしていないこと、被告人の反省態度は深く、今後は信頼し得る税理士の指導のもとに正しい納税を心掛ける旨を誓っていること、そして、本件脱税額について、本税等は借入金によって全てこれを支払い、その余の分納を認められたものも、被告人夫婦の個人的収入を極くわずかにして右未納分の支払いに充てていることなどが認められ、その犯情は極めて悪質とまでは言い得ない状況にある。そして、なお被告会社に四千万円の罰金を科することを考えると、被告人高見にとってもその支払いは相当深刻なものになると思われ、本件に対する責任の重大性を十分受けとめことになると考えられる。従って、それ以上に、懲役刑について実刑を選択することはいささか酷に過ぎると考えられ、この際は暫く懲役刑の執行を猶予よすることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 須藤繁)

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